
従来の数の子製品はなかった新たなパッケージが登場(2019年)
2010年代、数の子業界は産地の漁獲減、日本市場の消費減、産地の漁業者・国内メーカーの利益減という3つの減少に直面します。数の子の最大の産地であるカナダ、アラスカは漁獲の波が大きく、大型のニシンで知られるトギアック(ブリストル)をはじめ北米各産地では小型化が進み資源の枯渇をうかがわせるようになります。これに呼応するかのように日本の国内市場も産地の生産減を上回るスピードで縮小を続けています。毎年の買い付けでは日本側は減少する需要が作り出した供給過剰状態を現地価格の引き下げで乗り切ろうとします。しかし、操業コストが上がる中、一向にニシン価格上昇の気配が見えない状況が続き、ついに2020年の操業では大手パッカー2社が不採算を理由に操業を見送りました。新型コロナウィルスの影響による操業見送りと合わせ、最大の産地であったトギアックは「9割減」という未曽有の落ち込みをみせます。数の子は日本にしか市場がないにも関わらず日本は原料のほとんどを海外に依存するという特殊な商品です。それだけに産地と消費地の共存関係が不可欠なのですが、産地・国内メーカーとも疲弊し、業界にとどまらず産業そのものを再編する局面にいたりました。
一方、この間、ロシアでは新たな動きが訪れます。北米とは違い、自国にニシン市場を持つロシアではオスは自国内や近隣の中国へ売り、メスは日本に高値で販売し収益化を図る構造が定着します。豊富なニシン資源を背景により多くのメスを作るためそれまで手で行っていた選別を機械で選別するようになり、冷蔵庫を拡大するなど生産量を一気に引き上げます。当社はロシアの漁業者とのパートナーシップを結び、同社の設備投資に協力をするとともに、安定的な仕入れ体制の構築を進めました。2010年代後半、従来のコンタクトフリーザー(※1)に代わりIQF(※2)を導入し、ロシア産数の子は品質面で北米ニシンと肩をならべます。その後も巻き網船を導入し、定置網方式の「待つ漁業」(魚が入らないこともあり漁獲不安定化の原因であった)から魚群の動きに合わせて機動的に移動する「追う漁業」へと転換します。当社は資金面の支援に加え、必要以上の量でも獲った魚を全量買い入れ、産地が生産に集中できるよう協力を続けました。仕入れた数の子を売るためにはマーケティングに力を入れねばなりません。当社は本社が東京という地の利を活かし、量販店に対し徹底的なニーズ調査を行います。その結果、それまで業界になかった先述した新しい商品をどんどん市場に投入していきました。当然、当社の製品は販売数を伸ばし、採用する店舗は年々増え、その結果、産地にはさらなる生産能力の引き上げを求め、産地はそれにこたえていきます。産地メーカーと当社が作り出した「正のスパイラル」によって2010年代、日本国内では高品質かつ漁獲が安定した産地としてロシア産数の子の認知が高まり、それが細やかな商品企画と相まって北米産ニシンを代替する産地へと成長を続け、令和へと向かいました。
※1 薄いパンに魚を並べ上下から圧を加えながら凍結する方法。卵が変形する要因となり、また冷凍ムラがあるなど卵質不良の原因とされてきた)
※2 魚を氷点下の塩水に投入し、1匹1匹バラバラでまっすぐ伸びた状態で凍結する方法。北米のニシンはほとんどこの方法で生産される。