プロジェクトで最初に着手したのは「しめ粕(ニシンから作られた肥料)」の復活です。日本は食料の自給率が低いだけでなく、肥料も大半を輸入に依存しています。しかし、その昔「しめ粕」は、北海道から北前船で日本全国に運ばれ、戦後にいたるまで日本各地の農業生産性向上に大きく貢献した歴史があります。当社は岩内の自社工場で数の子製造の過程で出た残渣を、地元の工場で魚粉にし、農業が盛んな隣町、共和町の農家さん数軒と試験栽培を行いました。結果米、じゃがいもスイカ、メロン、とうもろこし、いずれも予想以上の出来となりました。先人はかくも自然に「海の恵みを土地に還していたのか」と感服し、今後も歴史に埋もれた先人の識(ち)の実践を図ります。」
プロジェクトは、「ニセコ町(森)ー倶知安町(川)ー共和町(里)ー岩内町(海)」という森・川・里・海をつなぐ連携と、「岩内町(漁)ー共和町(農)ー仁木町(農)ー余市町(農)ー小樽市(都市)」という農山漁村と都市をつなぐ連携を合わせた“地域循環共生圏”の確立を目指す。
識・継・興・繋がつくる
「岩内プロジェクト」
岩内町は、北海道の積丹半島西側に位置し、日本海とニセコ連峰に囲まれた自然豊かな港町です。明治から昭和初期にはニシン漁で栄えたこの町も1975 年の 25,823 人をピークに減少に転じ、現在の人口は約13,000人へと半減しました。中心市街地の空き家も増え、町全体の活気も失われてしまっているのが現状です。
過疎化が進む地方では都市が消費する膨大な食料を生産しています。サービス業が主体となった都市部ではリモートワークが可能ですが、地方では日々育つ作物、予告なくやってくる魚の漁獲のために、休みなく自然と向き合わねばなりません。かかる苦役を担わざるを得ない地方のゆたかさとは一体何なのでしょうか。本当に地方には苦しみと暗い将来しかないのでしょうか。しかし、東京に本社を構えている私は、この町、この地方が持つゆたかさを感じていることも事実です。けれども、そのゆたかさが何か、今ははっきりといえません。
当社ではその答えを探す事業を「岩内プロジェクト」と呼んでいます。岩内プロジェクトは2022年に始動し、近隣の町、異業種、思想家、芸術家たちを巻き込んで、着実に歩みをすすめています。その歩みは、一零細企業がこころみる壮大な社会実験でもあります。
先人の識(ち)
写真提供/岩内町郷土館
こども食堂支援
私が子供のころ、飢えは外国の話でした。しかし、今や飢えは身近にあります。特に生産地から離れた都市の飢えは深刻な社会問題と考えています。当社は、近年その取り組みが注目されている「こども食堂」への支援を開始しました。カリフッドの本社がある大田区の「こども食堂」へ、 “岩内町(海)と共和町(大地)が育てたお米や野菜、果物を提供しています。今後もさらに拡大させていきたいと思います。
技能の継承
私の祖父母はフィリピンの麻農園への出稼ぎで資金を貯め、その後1939年に南米移民としてパラグアイにわたりました。パラグアイからアルゼンチンにわたった後は、現地人に代わり花の栽培を行いました。多くの日本人が戦前の東南アジアに出稼ぎにでた事実は、東南アジアからの技能実習生を受け入れる今の当社にとって決して過去のことではありません。多くのひとが誤解していますが、技能実習生は出稼ぎではなく、技能を学びに来ています。当社は、技能実習生が当社で学んだ技能を帰国後も活かせるよう、ベトナムでの数の子加工を行い、数の子製造技術の伝承を図っています。
ものづくりのための
ものづくり
カリフッドの本社がある東京・大田区は、一芸に秀でた町工場の集積地です。食品業界は大きな変化を見せていますが、数の子やその製法は長らくイノベーションが起きていません。当社は賞味期限を大きく伸ばすスキンパック製造ラインや斬新なニシンの腹出しラインを地元企業と開発し、品質向上と労務の負担減を実現しました。今後もAIやセンサー、自動化ラインを導入し、業界の変革をリードしてまいります。
地域コミュニティ形成
岩内町は港町ですが、車で5分走ると豊かな農地をもつ共和町となります。さらに10分走ると果物の町、仁木町につきます。さらに10分走るとワイナリーで有名な余市町につきます。岩内町の両隣にある泊村、寿都町では岩内には揚がらない多くの魚介類が水揚げされます。一つの町がもつ独自性は、多くの町と連携することで多様性を生み非常に魅力のあるエリアを形成します。これは岩内に限ったことではなく、一つの町が近隣と相互補完しあうケースは日本全国で多くみられます。水産業が農業と絡むことで生まれる化学変化を楽しんでみたいと思います。
【プロジェクト01】
ニシンの「しめ粕」復活プロジェクト
有機肥料「カド」シリーズ
江戸時代後期から昭和初期にかけて、北海道では毎年春に押し寄せるニシンからしめ粕を作り、その肥料は北前船で昆布などとともに日本全国に送られ、米を初め茶、果実、綿花などの収穫増に大きく貢献した歴史があります。近年は化学肥料が主流となりましたが、昨今の円安や肥料の入手困難(ロシアは輸出国)があり、国内で調達できる優良な有機肥料のニーズは大変高まっています。そこで、当社はニシンから作った肥料や、それでつくられた農産品の取り扱いを「カド」シリーズ (※)として事業化することといたしました。
「カド」シリーズは海の恵みを畑に還す取り組みとして、また有機肥料を安定的に農家に提供する取り組みとして、さらにはこども食堂などを通じて恵まれない世帯に畑の恵みを届ける取り組みとして、多くの農家さんにご賛同いただいております。
※ニシンは別名「カド」と呼ばれ、数の子は「カドの子」がなまったものといわれています。
「カド」シリーズ参画農家
【プロジェクト02】
ニシンの肥料で育った
朝採れとうもろこしを直送!
“とうもろこしブラザーズ”こと國本兄弟が、ニシンの肥料で丹念に育てたとうもろこしを、東京の割烹「日本橋ゆかり」までその日のうちに新幹線で届けるというプロジェクトがスタート!
朝採れとうもろこしといっても、収穫開始は午前4時、夏でもまだ薄暗い時間からのスタート。約1時間半の収穫を終えて、トラックにとうもろこしを載せて作業場へ。6時から箱詰めを始めて、いざ函館駅へ出発。今回重要な任務を任されたたのはインターンの大学生池田君。
新函館北斗駅でJR貨物に引き渡し、10時53分発の新幹線「はやぶさ22号」へ乗り込むと一路東京へ。15時04分東京駅に到着、15時30分には「日本橋ゆかり」に無事納品を果たす。
重要なミッションを終えた池田君に感想を求めると「朝採れのとうもろこしは、生でも食べられるんですよ。しかも、ヒゲまで甘いんです!」と、興奮気味。最後は朝採れとうもろこし料理の数々を試食できて、大満足の一日でした。
“朝採れプロジェクト”は、今後も他の野菜や果物等でも引き続きチャレンジしていきます。
【プロジェクト03】
岩内から東京の子ども食堂へ
おいしいメロンの贈り物
全国の子ども食堂の数は2021年の調査によれば6,014ヵ所。ここ数年は、毎年1,000ヵ所以上増加しています*。
社長の井出は、こうした社会情勢の中、少しでも何か貢献したいと、北海道岩内のニシンの肥料で育ったメロンをカリフッド本社のある大田区の子ども食堂へ提供するプロジェクトをスタートさせました。
岩内のスイカ・メロン農家佐々木さんからメロン約100個を買い取り、カリフッド本社へ発送。送ってもらったメロンを都内の有名レストランのシェフ数人に試食してもらったところ、上々の評価をいただきました。これなら子どもたちも喜んでくれるだろうと、大田区の子ども食堂への配達をスタート。早速、デザートとしてドーンと、大ぶりのメロンが子ども食堂の食卓へ。
岩内と東京と子どもたちの笑顔を繋ぐ“子ども食堂支援プロジェクト” 、これからも大田区を中心に続けていきます。
*「認定 NPO 法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」調べ